ひょっとしたら、ひょっとする

にわかおたくの戯言です

過激派オタク、憤死

 

映画「峠 最後のサムライ」を鑑賞した。

司馬遼太郎原作の本作は、幕末期を生きた越後長岡藩家老・河井継之助を主人公にした作品だ。高校生の頃に父に勧められて原作小説を読んでから、そこから主人公河井継之助が大好きになった。移り変わりの激しい私の推し遍歴の中で、好きになって以降ずっと不動の一位は継サだ。

大好きな継サを大きなスクリーンで見れる!とドキドキとワクワクを抱きながら向かった映画館。

 普段映画を見たからといって感想文を書くことはないが、「峠」に関しては自分の気持ちに一区切りをつけるために書く。

 

 ネガティブな吐き出ししかしないよ!気を付けて!

 

 いやーーー!!酷かった。酷すぎた。これに尽きる。

 一言でまとめると「解釈違いのオンパレード」だった。

 映画がはじまって最初から「これはまずいかもしれない」と思った。あまりに「はぁ?」という展開が続くからだ。途中から見るのが苦痛で、中盤は悔しさのあまりにハンカチ片手に泣いた。後半はもはや虚無。トイレに行きたいから早く終われと念じながら見ていた。「面白かった!」「継サってやっぱりかっこいい!」と見終わった後に抱くんだろうなと思っていた感想は一切出てこず、「素敵な映画を見れた!」という余韻に浸るということもなく、「私が見たかったのはこんなんじゃない」と半泣きで映画館を後にした。

 

 じゃあどこが酷かったのか。あくまで司馬遼太郎の描いた「峠」の河井継之助が好きな人間が見た映画「峠」を吐き出すことにする。

(文中の俳優のお名前は全て敬称略。新政府軍は西軍、長岡藩はじめとする旧幕府方は東軍と称していますなんとなく。)

 

1配役

史実の河井継之助は41歳で亡くなる。対して河井を演じた役所広司は60代。そもそもがおかしい。役所広司である必要あった?

「日本のいちばん長い日」(2015年公開)で阿南惟幾を演じた役所広司はよかったと感じたが、それは役の年齢と演じる人の年齢が近かったからだと思う。

「「峠」映画化するよ!主演は役所広司だよ!」と発表されて以来、「いや年齢…」と不満はあったが、やっぱり不満は解消されなかった。役所広司が嫌いになりそうになったぐらいだ。

 河井の両親が息子夫婦に子が授からないことを話す場面がある。これまだ演じる俳優が30代40代前半の人だったらそこまで思わなかったんだろうけど、肝心の息子を60代が演じているとなると、河井父の「今さら励めと言ってもなぁ」という発言が気持ち悪い。

 年齢だけじゃない。スクリーンに映るのは私の理想とかけ離れた河井だった。河井はそんな笑顔振りまく人じゃないし、そんなに暑苦しくない。ご飯も汚くかきこまない。役所版河井のすべてが解釈違いで、原作と同じ台詞に対しても「お前が言うな」と思いながら見ていた。

 

 役とキャストの年齢があっていないのは主人公だけではない。全体的におかしい。

 新政府軍軍監・岩村精一郎(のちに高俊)は、「峠」後半において重要な人物だ。北越戦争のきっかけともなった小千谷談判にて河井はこの岩村と対峙するのだが、当時の岩村は若干24歳。しかし演じた吉岡秀隆は現在50代。(撮影時は40代だとしても…あの…?)「Dr.コトー診療所」の時の吉岡さんはよかったが以下略。

 談判中に「話なんて聞かん!さっさと帰って戦の準備をしろ!(ニュアンス)」と岩村が河井に対して喚くのだが、岩村にヘイトを抱かせるにはすごく良かったです(嫌味)。でも20代の若手俳優が演じたらもっと違ったんだろうなぁ。

 大殿様こと長岡藩前藩主・牧野忠恭戊辰戦争時44歳。演じた仲代達矢は、2022年時点で90…?えっ…?なんで…。

 ほかにも言い出したらキリがないから割愛するが、本当なんでその人たちで映画を作ろうと思ったの?知名度なくてもいいから、全体的にマイナス20歳若い、かつ演技力のある役者さんたちで演じてほしかった。

 

2夫婦ってすばらしいを謳う作品ではないんですよ

作中、河井と妻・おすがのやり取りが何度か登場する。それはいい。でもそれに比重を置かないでほしかった。もっと描くところあるでしょ。

オルゴールのくだり…いらん…。河井母とおすがの後半のやり取り…もっといらん…。河井を支える妻!みたいなのは「峠」において本当に必要でしたか?

 

3山県君

 キャストが発表されてから鑑賞直前まで、私の中の一番の不安要素が「キャスト一覧に山県有朋を演じる俳優の名前がない」だった。

 北越戦争において、新政府軍を指揮した山県有朋は物語後半の西軍側の主人公だと思っている。悪名高い山県だが、原作の彼は河井率いる長岡藩をはじめとする東軍に苦しめられ、また逆に苦しめる。どうすれば相手にとって痛手となるかを河井・山県両視点で描かれているのが熱い。そんなライバル・山県有朋の名前がキャスト一覧にはなかったのだ。

 西軍が信濃川を渡って長岡城下に奇襲をかける「信濃川渡河作戦」は原作で山県が立案し実行に移す。この普通なら考えられない作戦によって、東軍は城を捨てなければならない窮地に立たされる。漫画ならめちゃくちゃ熱い展開なんですけど、あのね、聞いてほしい。

 

 山県有朋、本当に出てこなかった。

 

 名前すら出てこない。そんなことあるんですね。

 のんきに朝ごはん食べてる岩村にブチ切れる山県が見たかったのに!友人を亡くして悲しむ山県が見たかったのに!

 信濃川のくだりだって、朝日山を制したよ!やったね!これで西軍は簡単には城下にこられないね!だって信濃川が守ってくれるもん!からの、うわー!信濃川を渡って西軍がやってきたー!大変だーーー!!って感じだった。なにそれ。なにそれ!

 劇中で泣いたのがここです。奇襲のくだりで本当に山県が出てこないんだって理解すると同時に、既に1時間と少しの間で溜まっていたストレスがぶわっと溢れて涙が出た。

 

4不親切

徳川慶喜」「榎峠」「朝日山」…これなんだと思いますか。

 正解は作中画面下に出たテロップです。慶喜はともかく、「榎峠」と「朝日山」(どちらも地名)ってテロップいれる必要ある?その前に他の登場人物の名前を入れなよ。誰が誰なのかさっぱり分からんかったから。最初から最後まで榎木孝明が誰を演じているのかさっぱりでしたよ。あとで公式ホームページを見て、「あぁ川島億次郎やったんか」って答え合わせしたもの。

 文庫本上中下巻という大作である原作を2時間の映像にまとめるのは難しいのは分かる。だから上中巻に関しては全カットで、北越戦争をメインとした下巻だけにスポットを当てるのも分かる。分かるんだけども。

あの時期の長岡藩がどういうポジションだったのか、河井継之助が藩においてどういう役割だったのかなんて説明なし。小千谷談判の時に、岩村がワァワァ「新政府軍に金出せって言ってんのに出さないじゃん!おこ!」って喚いていたけど、西軍側が河井をどう見ていたとか、なんで長岡藩が金を出さなかったのかとか描かない。でも絵を描く少年(河井の友人の息子)や酒を注いでくれる町人の娘と河井とのやり取りにはめちゃくちゃ時間割く。芸者を揚げに行くシーンも長い。割いてほしいところと別にそこまで割かなくていいんじゃないっていうところが、制作陣と真逆なのが笑える。

 

 河井継之助ってメジャーな人物ではない。中高の教科書に名前載っていないし、私も原作を読むまで存在を知らなかった。有名どころではないからこそ、丁寧にナレーションや登場人物をつかって描くべきではないか?

 全体的にもったいないなと、なんとか2時間を耐えて見終わった後に思った。この映画をきっかけに、「河井継之助」という人物に興味を持つ人っているんですか?「峠 映画」って検索をかけたら「大ヒット上映中」って文字が見えたんですけど、どの層が支持しているんですか?面白いとか、感銘を受けるシーンあったんですか?なんやかんや期待して見に行って、裏切られた気でいるオタクがここにいるんですけど。「同じ人物を主人公にした、たまたま同じタイトルの、まったく別の作品を見に行った」「私が好きなのは原作の「峠」」と自分に言い聞かせて自我を保っている状態だ。大御所の監督がメガホンを握ったとか、大御所俳優をはじめ豪華俳優陣が演じました!って言われても、それでこの出来ですかとしか言えない。

 

 幕末を舞台にしたドラマや小説・漫画といった媒体で、河井継之助が取り上げられる機会がないからこそ、すごく楽しみにしていたし、新型コロナ感染拡大による数回に渡る公開延期が決まるたびに「どうして峠ばっかり」と涙していた。何様?って感じだけど、公開されることによって河井の知名度もあがると思ったからだ。

 最初から見に行かなきゃよかった。期待値が高すぎたといえばそれまでだけど、去年公開された同じ作者原作の「燃えよ剣」を見たら、「峠も!」ってなるじゃん。

 「最低でも5回は見に行く!お金落とす!」と息巻いていたけれど、ごめんなさい2回が精いっぱいだった。

 さようなら、映画「峠」。私は一切受け付けなかったけど、それでも鑑賞直前までの楽しみにしていた気持ちはこれでも本物でした。

 

 以上感想終わり。これ以上愚痴を言うのはやめる。大好きな原作を読み返して、継サへの愛を再確認する。