ひょっとしたら、ひょっとする

にわかおたくの戯言です

継サの話②


前回までのお話!
死にたい願望MAXだった私は推し・河井継之助を主人公に描いたバイブル「峠」の映画公開が再再延期されたことで、逆に生きねばならぬと並々ならぬ決意を新たにしたのであった。

 時系列としては「峠」再再延期事件(と呼んでいる)よりも少し前の話である。
 「ちるらん 新撰組鎮魂歌(レクイエム)」(ゼノンコミックス 漫画:橋本エイジ 原作:梅村真也)との再会は偶然だった。
 仕事帰りにふらりと寄った本屋の漫画コーナーに発売直後の29巻が平積みされていたのだ。
 「懐かしい!」と思わず手に取った。表紙の斎藤一が着物ではなく洋装になっていたことや帯に「最新鋭の武器を調え迫る新政府軍。」と書かれていることから、物語は戊辰戦争に入ったんだなとぼんやり眺める。当時読んでいた頃はまだ芹沢鴨が生きていたのにこんなに遠いところまで……。
 軽い気持ちで裏面を見た時、衝撃が走った。
 帯に書かれた『戦争の天才 河井継之助、起つ』という文字、そして裏表紙と帯に描かれる煙草を吸う中年男性。
 ーーー継サ!?…継サぁ!?
 マスクをつけていてよかった。多分とんでもない顔をしていたから。毎度の如く、細い両目は大きく見開かれた。
 「ちるらん」は新選組を描いた作品だ。鳥羽伏見の戦いから敗走を続ける新選組は散り散りになり、近藤勇は処刑、沖田総司は病死と結成当時の面々が亡くなる中、残された土方歳三たちは会津勢に加わり新政府軍に抗戦する。彼らが共に戦った会津藩は同じく新政府軍に抗う東北諸藩と「奥羽越列藩同盟」を同盟を組むのだが、その同盟の中には河井継之助率いる長岡藩も含まれている。
 だが、新選組を描く作品で長岡藩が描かれることはないと思っていた。あってもチラッと名前が出されるくらいじゃないだろうか。新選組ってやっぱり池田屋事件が一番メインで描かれている印象がある。歴史の渦に巻き込まれて悲しい最期を迎える人が多すぎるのもあるんじゃないかなとこれは個人の勝手な想像だ。
 それが今私が手に取っている「ちるらん」29巻にはどうやら河井継之助が登場するらしい。加えてだいぶ私好みのイケおじ具合だ。
 買うか悩んで、結局その場では買わなかった。帰りの電車で悩みに悩む。
 そもそも私は一度「ちるらん」を読むのをやめた身である。理由は覚えていないけれど、いつの間にか読まなくなっていた。もちろん上記の近藤・沖田が「ちるらん」の世界でどのようにこの世から去っていったのかも知らない。そんな中、推しが出てきているから買う…?そんなことが許されるというの…?
 帰ってからも延々と悩んだ。その日受けたクレームも忘れるぐらいの勢いで悩む。

 結果として、翌日には手に入れていた。だって心の中のプロシュート兄貴が「心の中で思ったならッ!その時スデに行動は終わっているんだッ!」って言うんだもの(幻覚・幻聴)

 どきどきしながらページを捲る。以下29巻主観しか入っていないネタバレ感想のはじまりはじまり。(「ちるらん」河井継之助を河井呼びなのは、別作品での呼び方で呼んでいいのか迷ったからである)
 伊地知正治率いる新政府軍を撤退させた会津軍と斎藤一率いる新選組一行。戦いを終えた後「この戦力じゃいつまで持つか分からない」と話すはじめちゃん(斉藤)に対して、会津藩士・佐川官兵衛は不敵に笑う。「私があの漢(おとこ)を動かしに行こうと思う」。その漢こそ「長岡藩軍事総督 河井継之助」である。「長岡藩軍事総督 河井継之助」…この文字の並びだけでもう白飯三杯は食べれるね私は。
 白髪をツーブロックにし、大きめの羽織の下には胸元の開いたシャツ、足元は草履と藩のトップである家老らしからぬ格好で登場する河井。垂れ目具合や無精髭も色っぽい。喫煙しているシーンが多いのだが、右手中指と薬指で煙草を挟むその姿も既にかっこいい。終始飄々としていて、語尾には「〜」がつくのもいい!外見や話し方から既にノックアウトされていた。
 作中子供たちが、河井に絡むシーンがある。「河井のおっちゃん遊ぼう!」とわらわら寄ってくるのだが、なんと河井に抱きつく少年の姿が!羨ましくて思わずフリーズする。あと団子を河井に「あーん」ってしてもらった少年にも羨ましさで血の涙を流す。
 これは「峠」(司馬遼太郎新潮文庫)の話だが、継サが顔見知りの町人の娘を「嬢や」と呼ぶ場面が何度か出てくる。初めて「峠」を読んで以来羨ましくて仕方ない。

 そんな「嬢や」と呼ばれたい身としては「ちるらん」の長岡キッズたちには嫉妬せざるを得ない。昔は「○○(当時の推し)は嫁!」とか言ってたけど、二十代も半ばに差し掛かろうとして、推しに絡める子どもになりたいとは思わなかった。なれるもんならなりたい。
 土方や佐川が長岡藩に協力を求めにくる場面も河井は河井である(意訳:かっこいい)。一度は断るのだが断り方が「イヤなこった〜」…好きィ〜…(重症)
 あとね!長岡藩を全国有数の強藩にした理由として「この混沌の時代に長岡(オレら)が長岡(オレら)でいるためだろうが?」と言う台詞には、既にお分かりだろうけれど泣いた。私も長岡(オレら)に混ざりたい。
 この時代の人たちって、自分たちの藩をすごく大切にしている。時代背景や考え方もあるが、地元に対してそこまでの考えや思いを抱いたことがないため、藩のために命を賭けようとする彼らの決意は身近な考えではない。

 江戸幕府を倒した勢いそのままにやって来る新政府軍。多くの藩が新政府軍に従う中で、河井が下した「抗戦する」という決断に賛同する長岡藩士たち。時の長岡藩主牧野忠訓は当時の年齢が今の私と近いから余計に感情移入してしまう。この後彼らに襲いかかる過酷な運命が「ちるらん」ではどう描かれるのか、何度も読み返しながら考えた。
 ところで作中で佐川官兵衛が「さすが私の見込んだ漢だぁぁッ!だい好きだーっ」と感情大爆発する場面には「私も大好き!」と佐川に全同意である。私たち、同担だね。

 29巻に関しては、もちろん河井以外にも土方の代わりに新選組を率いることとなった斎藤一や、万全ではない状態で河井の説得に向かった土方など新選組隊士たちも見所はたくさん描かれている。土方の小姓である市村鉄之助に出会えたのもよかった。「ちるらん」鉄くん、可愛い!可愛い!!と鼻息荒くして読んだ。いけない。私の中の元気な男の子好きの血が騒ぐ。

感想というか、ただ推しはどの作品でもかっこいい!っていう文章になってしまった。関係者各位に失礼にならないかビクビクしている。愛はあることは理解してもらえたら嬉しい。

 次回「生まれは兵庫、育ちも兵庫、それでも心は長岡と共に」