ひょっとしたら、ひょっとする

にわかおたくの戯言です

継サの話①

 映画「峠」が2022年公開と延期が決まった。
 本来であれば2020年9月公開だったものが今年の6月18日、7月1日と公開が延ばされていたので、正しくは延期ではなく再再延期だ。
 
 「峠」は司馬遼太郎の長編小説の一つを映像化した作品だ。長岡藩家老・河井継之助(かわいつぎのすけ)の人生を描く。
 以下簡単な原作「峠」あらすじ。
 幕末、江戸幕府が瓦解した後に新しい国家を作り目指す新政府軍と、それに対抗する会津をはじめとする旧幕府軍の戦い、戊辰戦争
 小藩である長岡藩に生まれた河井継之助は赤字財政だった藩を立て直したこともあり、出自にも関わらず家老となる。新政府軍と旧幕府軍に挟まれた藩の中で、当時誰も考えなかった(であろう)中立の立場を唱えるも、希望は聞き入れられず、結果として戊辰戦争の中でも最も苛烈と言われた北越戦争へと河井、そして長岡藩は突入してゆく。以上あらすじ終わり。
 原作小説は高校生の頃に父に勧められて以来、大好きな作品の一つだ。ともかく河井継之助(以下継サ)がかっこいいのだ。(かっこいいという一言では継サの魅力を収めることはできないが今回は主題ではないので割愛)
 
 幕末を舞台にした作品は数多くあれど、北越戦争をメインにした作品は多くないと感じている。探せばあるんだろうけれどリサーチ力が低くて把握しきれていない。ちなみに近年放送された維新の三傑の一人を主人公に描いた某大河ドラマ内では「長岡の河井継之助が〜」と一言名前が出て終わった。それでも嬉しくて何度も繰り返し見た。(ところで今になって名前すら出ていたかと記憶があやふやになっている)
 だからこそ2018年に「峠」の公開が決まってから、ずっとずっと楽しみにしていた。
 
 話が逸れた。公式がホームページで再再延期を公開したのが5月24日、対して私がその事実を把握したのは6月も中旬に入ってからだった。
 寝る前にふと「そろそろ前売り券でも買おうかね」と軽い気持ちで検索をかけた結果、いつの間にか2022年に延期が決まったことを知ったのだ。
 
 なんでだ!!2022年っていつだよ!!深夜にも関わらず暴れ倒した。具体的にはスマホを握り締めつつ大きめのビーズクッションに当たりまくった。(集合住宅なので声は出さなかった。えらいさんだね!)
 なんで、どうして、悲しくてやるせなかった。
 ところで去年世間を一世風靡したアニメ映画は全国の映画館で朝から晩まで公開し続け、大ヒットを記録した。メインのキャラクターは「何百億の男」と呼ばれた。連日テレビでは主題歌が流れ、出演声優は地上波バラエティー番組に出ずっぱりだ。
 嫌味に聞こえるかもしれないけれど、別にそれに対して批判はしたくない。批判はしたくないけれど、それでもコロナ禍と言われる今の世の中、片や日本映画史に残る大ヒットとなり、片や延期に延期を重ねている。どうして「峠」は公開が延ばされ続けなければならないんだろうと一通り暴れ倒した後に涙が出た。
 
 こんなにも楽しみにしているのに、と考え出したら止まらなかった。2021年のスケジュール帳は購入してから真っ先に公開日である6月18日に「峠公開♡」と印をつけて、可愛らしいシールで囲っていた。仕事はシフト制だから公開日は予め休みを取って、初日の一発目から見に行こうとわくわくしていた。「峠」を勧めてくれた父にも自分から「映画行きませんか?」と誘いをかけていた。(出来の悪い娘なので、父に対しての劣等感からか大体敬語でメールを送るのが精一杯な私がである)
 
 一昨年になるが初めて新潟にも行き、「峠」や継サへの愛を高めていた。
 信濃川を見てはその壮大さに興奮し、小千谷市にある慈眼寺では感極まり涙し、同行してくれた彼氏をドン引きさせたり(挙句泣き疲れて移動中の車内で爆睡をかます)、長岡市河井継之助記念館ではガトリング砲を嬉々として回し、制作現場の写真を見ては「私もエキストラで参加したかった、何故私は長岡市民ではないのか」と嫉妬したものだ。彼氏の行動力のおかげだが、福島は只見にも連れて行ってもらった。継サ終焉の地である只見にも河井継之助記念館と、継サのお墓がある。ここでも感極まり泣きそうになりながら手を合わせてなむなむした。スマホの画像フォルダ内には満面の笑みで河井の銅像と撮ってもらった写真が保存されているが、本当に泣くか笑うかの幸せな旅行だった。
 
 今回の映画化に関しても、「継サを演じるには役○広司はおじいちゃんだよね」(北越戦争時の継サはアラフォー)とか「岩村役に吉○秀隆はダンディーすぎる」(登場人物の一人である岩村精一郎は当時24歳)とか、「なんで登場人物一覧に山県くん(※1)がおらんねん!老人(※2)って誰や!!」とか、不倫騒動で世間を騒がせた俳優が出演していることとか、キャスティングは思うところがあったがそれでも、それでも!私は映画「峠」を楽しみにしていたの!!いや、今も超楽しみにしている!
(※1山県くん:山県有朋北越戦争では新政府軍として継サ率いる長岡藩と戦った。原作では継サと山県の「相手はどう出るか」という心理戦が熱い!と個人的に思っているので、一覧に名前が無いことが解せない)
(※2老人:登場人物一覧に「老人」として名を連ねている。長岡市民の一人なのか、どういうポジションで出てくるのか未だに分からない)
 
 一通り悲しみをTwitterに吐き出した後には自分への怒りが止まらなかった。
 継サを好きだというなら、ちゃんと毎日公式サイトを見て、いち早く情報を確認すべきだったのではないか。何故延期が決まってから半月も過ぎて把握しているのか、同じショックでも度合いが違いすぎる。そもそも継サに対してのアンテナが立ってなさすぎる。
 政府も政府だ。オリンピックは反対意見を押し切って開催するんだったら「峠」も公開してくれよと自分本位の怒りは政府にも向く。(もちろんオリンピックのために人生を捧げている選手や関係者の方々を批判する気はサラサラない)
 深夜に台所の換気扇の下で延々と怒りと悲しみを吐き出すように煙草を吸い続ける2X歳、女性。歯磨きをしたにも関わらず翌日は一日中口内が気持ち悪かった。
 
 だが、怒りは時にいい方向に向く。
 生きようと思ったのだ。正確には「生きねばならぬ」だ。
 今は落ち着いたが、春先にかけて割と本気で「死にたい」と思っていた。仕事も辞めて、毎日自堕落な生活を送って、何もしていないからこそ自己嫌悪が進む。実家の家族や彼氏にもたくさん迷惑をかけた期間だった。そんなボロボロ私のメンタルは「何がなんでも「峠」を見るまでは死ねない」に切り替えられた。もちろん、もう一度新潟にも行きたい。信濃川に向かって愛を叫びたい。「継サに会いたい」がいよいよ生きる活力として私の中で大きな比率を占めている。
 
 そうだ、自堕落な生活を続けた結果のだらしない体も引き締めなければならない。だって、推しを見に行くのにボロボロの状態でいけない。あと、継サってほっそりした女性が好きだと思うんですよ。燃やせ、脂肪!引き締めろ、肉体!
 彼氏に「君はコレと決めたらそれだけに一直線だよね」と呆れられる性格は、継サに出会ってからの年数の中で一二を争うくらいには継サへと一直線だ。「生まれも育ちも関西だけど、心は長岡藩士だよ」と偏愛っぷりや、継サの考え方に少しでも近づきたくて陽明学を学ぼうと考えていることは人に話すと「狂気」と言われるが、だって全ては映画を心から楽しむためなのだ。
 ちなみに継サ効果は早速出ている。継サは綺麗好きだろうからという理由で、休みの日は家の掃除に力を入れている。学生時代その汚部屋っぷりを母に怒られていた私が休日にせっせと部屋をきれいに保とうとしている…!
 
 待っててね、継サ。絶対絶対会いに行くから…!と毎日継サ(概念)に祈りを捧げながら、生かされている今日この頃だ。
 
次回「ちるらん河井に恋をする」