ひょっとしたら、ひょっとする

にわかおたくの戯言です

目標は月に三冊で候

    今年に入って図書館通いを再開している。重度のスマホ依存から脱却するためだ。

 恐ろしいことに、私は隙あらばスマホに触れている。片手で操作できるこの端末で見るのはもっぱらYouTubeとX(と書いてはいるが本当はTwitterと書きたい)。
 そんな数分の間に目新しい情報が更新されるわけでもないのに、ついつい触り続けてはいつの間にか夜、みたいなのが日常茶飯事なのである。
 スマホ依存の目安とされるのが一日あたりにスマホに触れる時間が5時間以上らしい。えっ、そんな、余裕で超えてる…。
 これはいかんと、スマホに代わる娯楽を本に託した。
 
 通っているのは市立図書館の分館だ。図書室というのが正しいかもしれない。こじんまりとしているけれど、施設自体がこの数年で建てられたこともあって明るくて綺麗な場所である。
 家の中で読むと途中で煙草休憩に入ったり、ごろごろしてそのまま寝るのが分かっているから、本当な図書館内の読書スペース(机と椅子が何組か用意されているのだ)で読めばいいとは分かっている。
 だがいかんせん家が好きというのと、そもそも出不精で徒歩10分の距離も出るのがめんどくさいと感じるためについつい家の中で読もうとしてしまう。そうなると結果はお察しの通り、煙草休憩と称して左手にアイコス、右手にスマホで換気扇の下に立っています。依存からの脱却は程遠い。
 
 そんな状態だが、面白くて一気読みした小説がある。司馬遼太郎の『故郷忘れじがたく候』(文春文庫)という短編集の中に収録されている『斬殺』という小説だ。物騒なタイトルである。
 戊辰戦争時、仙台藩にやってきた長州藩士・世良修蔵と、彼に対応する仙台藩の人々を描いている。煙草休憩も取らず一気読みした。
 ちょうど今の私の一番の関心ごと(というか現実逃避のための救いの場)が、幕末から明治にかけての歴史であって、特に仙台藩が中心となって組まれた奥羽越列藩同盟についてなのだ。ほら、河井継之助も関わっているし…。『斬殺』はこの奥羽越列藩同盟の前身である奥羽列藩同盟が結成される前後を描いていて、今の私にすんごく刺さる内容だったのだ。
 司馬遼太郎が世良を主人公にした小説を書いているとは知らなかった。知らない状態で、図書館の司馬遼太郎の作品が並んでいる棚を眺めている時にたまたま手に取ったのだ。
 表紙のあらすじを引用すると「他、明治初年に少数で奥州に遠征した官軍の悲惨な結末を描く「斬殺」(略)を収録」と収録内容が書かれている。なんと!しばりょは世良修蔵についても書いていたのか!と嬉しくなって、そのまま借りた。本当は同じ司馬遼太郎の『世に棲む日々』を借りる予定だったのにね。若き日の山県くん(山県有朋)を浴びるつもりだったのにね。
 
 さて、『斬殺』を読み始めたら止まらなかった。
 現在停滞しているが、こちらも図書館で借りた星亮一さんの『奥羽越列藩同盟 東日本政府樹立の夢』(中公新書)で「つまりどういうこと…?」と頭を抱えていた内容がするする入ってくる。新書と小説だから読みやすさはそりゃあ小説にあるとは思うのだが、面白いくらいに理解が出来る。「これ進研ゼミで習った内容だ!」と脳内フィーバー状態だ。私自身は打たないがパチンコで例えると連続で大当たり演出が流れている感じ。
 冒頭、大久保利通大村益次郎なんかも登場すると、それぞれの登場は1シーンにも関わらずテンションが上がった。特にしばりょが描く大久保利通が大好きなのだ。こんなところにも大久保サァ!である。
 世良修蔵については、星さんの『奥羽越列藩同盟』を読む限り、仙台藩の人々の気持ちを逆撫でするようなことばかりをするイメージがあった。イメージが変わるかしらと読んだが『斬殺』での世良も高圧的で、相手が大藩のお殿様であろうが上役であろうが上から恫喝するような態度で…あんな最期を作るきっかけを自ら作り続けていたなぁと、良い印象は抱けないままだった。ただ物語の終盤、世良の最期に関しては少しはその扱いを憐れんだよ。
 主人公にまったく感情移入はできなかった、むしろ仙台藩負けないでー!という気持ちで読み進めたが、面白いから読むのが止まらない感覚、我がバイブル『峠』を初めて読んだ時と似ている。『峠』は文庫本3冊分を一気に読んだわけではないけれど、それでも私の中では爆速で読み終えた作品だ。継サがかっこいいんすよ、えぇ。
 
 読書っていいな、司馬遼太郎ってやっぱりすごいな、面白いなと感じることが出来たいい機会だった。いや、しばりょはすごいのはもちろん知ってるけど再認識したのだ。ありがとう、図書館。図書館で借りれるからこそ、万が一失敗してもしゃーないかで済ませることが出来ると手に取ったのが良かったのかもしれない。
 満足感に浸りまくっているのでこのまま積んでいる本をどんどん消化して、スマホ依存からも脱却したいで候。

半年ぶりに本を読んだ話

 

drdrygc1930.hatenablog.com

 

 この続きになる。

 

いざ行かん、日本シリーズ

 

 いよいよ今週末からプロ野球日本シリーズが始まる。

 セ・リーグ阪神タイガース、そしてパ・リーグオリックス・バファローズと、ともにリーグ一位でシーズンを終えたチームが日本一をかけて戦うこのシリーズは、「関西ダービー」だとか、「阪神なんば線シリーズ」だとか様々な呼び名で称されて、始まる前から盛り上がりを見せている、と思う。

 ただこの関西ダービーによって、八木家は家族仲が崩壊する可能性があるのだ。

 なんでって?一家族の中に阪神ファンオリックスファンが存在するからだよ!

 

 八木家のプロ野球事情は、一員である私がいうのもなんだが複雑だと思う。ということで、愉快なメンバーを紹介していこう。

 

 まず父と長弟。彼らは根っからの阪神ファン。基本的に我が家の夕食のお供は、サンテレビ阪神戦の中継だ。

 

 父は普段穏やかな人だと認識しているが、阪神が絡むと途端にめんどくさい人間になる。幼い頃一緒に阪神戦を見ていて、多分その時阪神が失点か何かしたんだろう、父がリモコンを投げつけたことは今でも覚えている。あと今年一緒にテレビ中継を見た時にも失点時には絶叫していた。

 

 そんな父の阪神愛を最も濃く受け継いだのが長弟で、彼は彼で他球団なんか知らん、阪神が一番や!と日々テレビの前で熱くチームを応援している。父のように絶叫はしないが、いかんせん発言が過激だ。私もよく応援しているオリックスが失点したりエラーしたりすると途端に愚痴をこぼしては「過激だよ」と指摘されるのだが、長弟に比べれば可愛いものだ。

 

 次弟は阪神戦ばかりが流れる八木家において、突然中日ドラゴンズのファンになった。まじで突然変異。2006年の日本シリーズから、落合監督率いる中日に惚れこんだ次弟は今に至るまで中日を応援し続けている。ただし彼も過激なので、中日の話題を出すタイミング等、もろもろを考えて発言しなければならない。下手したら一生口をきいてもらえない可能性があるからだ。

 

 私自身はもともと関西に生まれ育って、父や長弟が見ているからと幼い頃は応援するなら阪神かなぁというレベルの人間だったのだが、彼氏であるM氏に京セラドームに連れて行ってもらったことがきっかけでいつの間にかオリックスファンになっていた。まだファン歴としては四、五年だがオリックスファンと名乗らせて下さい。中嶋監督は救世主です。

 

 ちなみに母は昔はイチロー選手、今は大谷翔平選手とチームではなく個人をゆるーく応援している。よくオリックスが負けて暴れまくっていると「大谷くんを応援すればいいねん、楽しいで」とささやいてくる。でも一緒に京セラに現地観戦に行ってくれたり、昨年は御堂筋パレードに付き合ってくれたりと優しい母である。

 

 以上が八木家の野球事情である。

 

 阪神対中日の試合が中継される日には、長弟と次弟の間で冷戦がしょっちゅう起こり、交流戦のシーズンは次弟から一方的に「話しかけてくるな」とLINEが飛んできて悲しい思いをしている。みんなが同じチームを応援していればこんなめんどくさい思いを抱くことはなかったろうに…。

 

 だが推し球団が絡まない試合だと、みんな一丸となるのだ。

 一昨年、そして昨年の日本シリーズでは家族みんながオリックスを応援してくれた。

 普段は自分の前で大人しくしている娘がユニフォームを着、タオルを振り回し涙を流す姿を父はきっと初めて見ただろうが、それでも一緒に応援してくれたのは嬉しかった。オリックスの選手のこともほめてくれて、当時の私は鼻高々だったのである。

 母もほぼ全試合チェックしてくれていたのと、次弟は去年の第五戦、吉田正尚選手のホームランで一緒に抱き合って喜んでくれた。

 

 だが今年はそんなあたたかいエピソードが生まれることはない。というか一緒にテレビの前で放送を見ることもないだろう。何故なら私がこのシリーズ期間中実家に帰る気がさらさらないからだ。

 

 今年の阪神は他球団を追っている人間から見ても、とっても強いイメージがある。さくさくっとリーグ優勝を決めて、さくさくっとCSも突破した印象だ。CSファイナルでは先制されているのにすぐに追いついて逆転してって…。投打嚙み合いすぎじゃない?

 関西ローカルのニュース番組は連日お祭り騒ぎだ。リーグ優勝前後、CS前後、そして日本シリーズを直前に「阪神すごい!阪神つよい!阪神最高!」(すべてニュアンスです)と盛り上がっている。

 いや、分かってた。これが関西なんだ。悲しい気持ちになるからテレビも消せばいいのに、ついつい見てしまっては「オリックスわい!」と嘆いてしまう。

 

 何が怖いって、日本シリーズが始まったら京セラドームも甲子園も阪神ファンに埋められてしまうんだろうなぁ、地元メディアは阪神ファーストで盛り上げるんだるなぁと想像に難くないことだ。オリックスの選手には耳栓してプレーしてくれないかな、相手の応援シャットアウトしてくれないかなとつい願ってしまう。

 

 今私は実家から離れて暮らしているので(それでも電車ですぐに帰れる距離だが)、父をはじめとする家族の面々とは基本LINEでのやり取りだ。

 父はオリックスがリーグ優勝、CSを突破したタイミングでLINEをよこしてきた。

「八木ちゃんこんばんは^^オリックス3連覇おめでとう^^阪神との御堂筋シリーズ楽しみやね!」だとか、

「八木ちゃんこんばんは^^オリックス日本シリーズ進出決定!今年は関西で盛り上がりましょう^^」だとか。

 

 これを優しい父からのメッセージと素直に受け取れないのが、我がめんどくさい性格である。これでも普段は「いやいや、阪神さんもお強いじゃないですか!」と謙虚な返事をしているのだが、今回はそうもいかなくて、「阪神が勝つ気満々の父に少しでもダメージを食らわせるにはどのような返事をすれば良いか」と私はM氏に都度相談を持ち掛けるのであった。母からは「今からそんなピリピリしなくても」とごもっともなご意見も頂戴した。

 

 実家で日本シリーズを見れないのは父の存在だけでなく、父以上に阪神愛が過激な方向に走っている長弟の存在もある。きっと彼は阪神をあげにあげ、無意識のうちにオリックスを下げるのだろう。自ら心に傷を負いに行きたくはない。

 

 内乱が起こるかもしれない、もしかしたら家族仲が崩壊するかもしれないと言うが、もしかしたら私が一方的に引き起こそうとしているだけなのでは…?私、家族のこと大好きなんですけどね。多分あまりに関西のメディアが「阪神阪神!」と盛り上がるものだからその鬱憤を身近な阪神ファンにぶつけようとしている…?えっ、ごめん…。

 

 一昨年、去年と日本シリーズをテレビの前で見ながら、常に胃が締め付けられる感覚がして心身ともに満身創痍!みたいな状態だった。一昨年は悔しさに泣き、去年は嬉しくていっぱい泣いた。

 だが今年はきっとそれ以上にしんどい思いをするのではないか。とりあえず朝晩の関西ローカルの番組は極力見るのを避けようと思うのと、家族の存在は一回シャットアウトして心してみようと思う。がんばれ、オリックス…!頼むよ、オリックス…!

リハビリしよう、そうしよう

 絶賛本が読めないでいる。

 誇張ではなく本当に春先から今の今にかけて、まともに本が読めない時期が続いているのだ。

 何回か「本腰入れて読むぞ!」と自宅にある本を適当に取ってはみるものの、どれも完走出来たためしがない。途中で諦めてしまうのだ。何故か。

 多分、脳が文字を認識することを拒否しているんだと思う。ゆっくり丁寧に読んでいるはずなのに、前のページの内容がすっかり抜けているのだ。そんなもんだから、また戻って読んで、を繰り返す。んで、ギブアップ。

 何も難しい専門書を読んでいるわけでもないし、全く興味がない話を読んでいるわけでもない。読もうとしている本は、自分が興味のあるジャンルのものばかりだ。

 

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 ちょうど一年前、「推しも読書してるから、私も読書する!」と投稿していた。その時はちゃんと通勤鞄に文庫本が必ず入っていて、朝晩の通勤時間やお昼休憩のタイミングなんかは毎日読んでいたんだ。休みの日だって、ふがふがと読み進めていたんだ。本当だ、信じてくれ。

 その当時、かなりゆっくりのペースではあるが読み進めていた『翔ぶが如く』(司馬遼太郎/文春文庫)は、現在八巻あたりで止まったままだ。あんなに西南戦争に熱を上げていたのに…。九州地方の土地勘がないから、ネットで地図を検索して、位置を確認しながら読むという力の入れようだったのに…。神風連の乱でのキーワード「宇気比」は、そのワードが出るたびに「宇気比だ!宇気比だ!!」とテンションがあがっていたのに…!

 『翔ぶが如く』にいたっては、読まなくなってから時間が経ちすぎて、内容がすっかり抜け落ちてしまっているので、また読めるようになったら一巻から読むことになるんだろう、ということと、そうなったらきっと川路(※1)がパリで脱○するところをまたおさらいするんだろうな、なんてことを考えてる。

(※1 川路…日本警察の父こと、川路利良のこと。『翔ぶが如くにおいて、大久保利通と並ぶ私の推し)

 

 いや、原因は鬱々としたメンタルからくるもんだって分かってる。この数ヶ月のワタクシ、びっくりするくらい廃人と化してるんですよ。わはは。

 そういう時こそ気分転換に読書すりゃいいのに、ページをめくる気力さえ起きなくて、だらだら横になりながらYouTubeを垂れ流している。(ただ二、三十分の動画でさえ途中で寝落ちてるんだから、本当に何をしてるんだって話なんだけども)

 

 これはいけない、リハビリする必要があると思って、久々に本を買った。

 「HHhH プラハ、1942年」(ローラン・ビネ著、高橋啓訳/創元文芸文庫)だ。

 第二次世界大戦下のドイツで、辣腕を振るいに振るいまくったナチス・ドイツの高官、ラインハルト・ハイドリヒの人生と、そのハイドリヒの暗殺計画『類人猿(エンスラポイド)作戦』について、その後のナチスによるチェコ人への報復を描いた作品である。

 カタカナ五文字以上の単語を覚えられない私だが、何故か強烈にナチス・ドイツという集団に興味を惹かれて早数年。(決して彼らの思想や彼らが行った残虐行為には全く賛同はできないが)気持ちが落ちると必ずといっていいほど、こちらの方面に好奇心の矢印を向けている。といっても、ナチスを扱った映画を見たり、ウィキペディアを読んだり(?)、ゆっくり実況を聞き流すという、浅瀬でちゃぷちゃぷしてはきゃっきゃするレベルだが。

 どうして興味を抱いているのかは、未だに自分の中でもしっくりとした理由を確立できていない。多分最初は軍服がかっこいいとかそんなもんだったはずだ。あと、多感な時期にルーデル閣下(※2)のチートっぷりを知ったからとか。

(※2ルーデル閣下…ドイツ空軍の軍人、ハンス=ウルリッヒ・ルーデルのこと)

 購入した『HHhH』は口コミを読む限り、ある程度の時代背景や、ナチスや関連人物に関しての知識があることを求められる、らしい。浅瀬できゃっきゃレベルでも大丈夫ですかね…。

 知識ほぼゼロな状況で挑むことに対して戦々恐々としているが、俄然興味はあるので、なんとか読書をするきっかけとなってくれることを願う。

あの日あの時御堂筋

 2022年11月3日、夕方、日が傾きつつある中で私と母は御堂筋にいた。オリックスの優勝パレードを見るためだ。

 シーズン最終盤、クライマックスシリーズ、そして日本シリーズと私のメンタルと胃をこれでもかと痛めつけたオリックス・バファローズは奇跡の逆転劇を見せ、日本一のチームになった。

 そんなオリックスの優勝パレード!見に行くしかないじゃない!と母を誘い、私は人生ではじめてパレードというものを体験しにいったのだ。

 

 当日の朝、カーテンから差し込むあたたかな陽気に、私の心は躍った。お天気にも恵まれて、なんて素晴らしいパレード日和なのかとわくわくしつつ、Twitterをひらくと、既にパレード会場となる本町周辺にはオリックスファンがいるらしい。

 この時点では「17時からのパレードで、早すぎない?」と思っていたのだ。だがこの甘すぎる考えがのちに悲劇を生むことを朝9時時点の私はまだ知らない。

 

 15時頃に私の住んでいる家の最寄り駅集合と、母と約束し、るんるんな気持ちで家中の掃除に取り掛かった午前中。浴室の排水溝掃除だってなんのその。どのタオルを持っていこうかしらとか、どの服で行こうかしらとかデート前の恋する乙女の気分である。

 化粧もいつもより時間をかけて丁寧に仕上げた。ビューラーで何度もまつ毛をあげて、マスカラであげた両目は当社比いつもよりぱっちりおめめ(当社比です)。誰に見せるわけでもないし、自己満足だけど、…いいの!推したちに会いに行くんだもの!少しでも綺麗になりたいじゃない…!沿道から聡(中嶋監督)にファンサをもらえたら嬉しいな、とか、でも待って聡はファンサをする人じゃないわ!(でもそういうところが好き)だとか、まだ現地にもいないのにテンションは爆上がりだ。

 結局いつもと変わり映えのしない化粧とはなったが、悩んだ末に選んだタオル数枚をユニフォームとともに鞄に詰め込み、うきうきしたまま家を出た。

 

 母と落ち合って梅田方面に向かう道中も、私は恋する女の子のままである。日本シリーズがいかにしんどかったかを話し、中嶋オリックスがいかに素晴らしいチームかを熱弁した。

ちなみに母はオリックスファンではない。以前はイチロー、今は大谷翔平をひいき目に見てはいるが、特定の球団のファンではないのだ。だが娘の応援しているチームだからと、日本シリーズは全試合テレビの前で見てくれていたし、この日も私からの急な誘いに快諾してくれた心優しい母である。

 

 本町に到着したのは16時手前だった。母娘そろって普段本町を利用することがない為、どっちに向かえばいいのかふらふらと地下道を歩く。

 途中オリックスの選手のユニフォームを着た人を見かけて、「私も!」と持参したユニフォームを着て気持ちをより一層高める。「いいやん」という母の言葉にご満悦だ。

 だが、そのご満悦な気持ちも地上に出た瞬間に折れた。本町の地下から地上に出ると、人、人、人。見渡す限り人だったからだ。

ここでようやく完全に出遅れていることに気づく。「ここから先は規制していて~」と拡声器越しに警備員の声が届いて、「じゃあどこへ行けばいいのか」と嘆く娘。母は冷静で「一本外れてそこから見れる位置を探そう」と提案してくれた。

 どこか良い場所はないかと、ひとまず心斎橋方面へと歩く。私たちと同じように選手を一目見たいファンたちが列をなして歩くから、迷うことはなかった。

 しかしあまりにも人が多い。メインストリートにつながる道は規制されていて、そこに人が溜まるから前に進むことも難しい。母とはぐれないようにぴったりくっついて何とか前進する。

 結局私たちは難波神社横の筋で待機することにした。周りにはちらほらとオリックスファンと思わしき人たちもいるおかげで心強かった。

 

オリックスだけやったらこんな人集まらんやろ」という声が真後ろから聞こえたのは、母と私に声をかけてくれたお姉さんと「人すごいですねえ」「どうやったら沿道にまで行けるんでしょうかねぇ」と話していた時だ。

 後ろは振り返らなかったが、どうやら若い男女3人組のようだと声で判断した。「ダウンタウンとかおるから集まってるんやで」「阪神やったらもっと多かったやろうな」

 お、お、お前ーーー!!!!!!目の前に!いかにもオリックスファンです♡って格好をしている私がいるやろ!この背番号「78」が見えへんのか!名将中嶋監督のユニフォームやぞ!っていうか、私がいなかったとしてもユニフォーム着てきている人たち周りにいっぱいおるやん!なんでそんな高らかに言えるかなぁ!!ってかそもそも興味ないのになんでここおんねん!と心の中で憤慨する。決して声には出せないが、左右を見ると母もお姉さんも苦笑しているので気持ちは一緒だったのだろう。つられて私も「へへへ」と笑った。

 

 そんな気まずい空気にも耐えつつ待機を続けていたが、しかし一向に規制は解除されず、時間だけが過ぎていく。沿道から出てくる人はちらほらいるようだが、何もアナウンスはされないし、それどころか「ここからは入れません!」という警備員の声が届く。途端にざわつく難波神社周辺の民。

「ここから入れないってどういうこと」

「じゃあどこからなら入れるの」

「ちゃんとしてくれよ」と小声ながらも不満の声が上がる。ふ、不穏な空気…!しかしどうやら警備員さんにもちゃんと連絡が届いていないらしい。そんな馬鹿な。

「移動しようかな…」

とお姉さん。だが本当に身動きが取れないのだ。朝の満員電車なみに人に囲まれていて、かろうじて後ろを振り返るのが出来るくらい。

「やめておくべきかと…」

「ですよねぇ…」

なんて会話をしつつも、時間の経過に焦る。

 

 17時前後、ようやく前に進むことができると知った。だがこんなにも人であふれているのに、一人ずつ検温と手指の消毒、さらには検温済のスタンプを押す必要があるらしい。列形成なんてされてないものだから途端に我さきにとごった返して、私は母とはぐれた。さっきまで隣にいたのに…!半泣きになりながらも前に進むと、先に検温を終えて人混みから抜け出した母が不安そうに私を探している姿を見つけた。なんとか私も検温を終え、母に駆け寄る。「お母さん!」「娘!」と感動の再会をする母娘。落ち合えてよかった。「お姉さんはもう向こうにいったよ」先ほどまで不安を共有していたお姉さんのタフさに感動しながら、沿道に向か…

 向かえなかった。すでに人で沿道は満員御礼。我々は規制線を越えて数十メートルの位置で強制的に止まらざるを得なかった。かろうじて大通りが見えるかなといった感じである。

 

 しばらくして点灯式がはじまった。一斉にライトアップされる木々には純粋に感動した。

だいぶ日が経っているので、うろ覚えの記憶だが、スピーカー越しに楽しそうなMC、府知事、市長の声が聞こえる。姿が見えないので、ラジオを聴いているような感覚である。へぇ…BsGirlsちゃんたちも来てるんだぁ…宮内オーナーも来てるんだね…、聡のシンプルな挨拶、好きだよ…平野さん、笑いを取りにきてるね…と姿が見えない人たちに想いを寄せる。

 

 いざパレードが開始されると、周囲の人たちが一斉にカメラやスマホを精いっぱい伸ばすため、視界がより一層悪くなった。私も負けじとスマホを持つ腕を伸ばした。

 だが、私にとってのメインイベントであるオリックスさんの優勝パレードはなんだかよく分からないまま終わった。背伸びをして首も腕もこれでもかと伸ばし切って、日ごろの運動不足がたたっている我が肉体が悲鳴をあげるのも無視して、なんとかこの目で選手たちを見届けようとしていたが、選手たちを乗せた大型バスはどんどん心斎橋方面へと進んでいった。カメラ機能があまりよろしくない我がスマホで撮影した写真にはバスの上で手を振る白く発光した人たちが写っていたが、誰が誰だかまったく分からなかった。ムービーにいたっては前のおじさんの手がずっと映り込んでいた。無情。

 

 すべてのバスが通り過ぎて、なんとも言えない気持ちのまま母と帰ることを決めた。

「あったかいもの食べたいね」という母のありがたい提案のもと、我々が寄ったのはセブン〇レブン。そこで食べたホットドッグの美味しいこと!涙が出るくらい美味しかった。本当だ。決してパレードが一瞬にして終わったこととか、選手をまともに見ることが出来なかったことに対する悲しみからくる涙じゃないやい。

 

 パレードが終わったあと、インスタでは選手たちのあげる楽しそうな動画や写真を、またTwitterでは沿道で選手を間近に見れたファンの方たちの楽しそうな呟きを数多く見た。へぇ、メインストリートはこんなだったんだぁ…へぇ…と悲しくなってしまった。行ったこと自体に後悔はしていないが、果たしてあの日の私は御堂筋パレードに行きました!と笑顔で言えるだろうか。あの空間に「いた」としか言えない。

 

 今回の悲劇から学んだ教訓が「早く行動に移すことの大切さ」だ。

 勝手が分からず、母との集合時間を昼過ぎにしたが、結果として選手からのファンサをもらうことはおろか、間近で選手を見ることすら叶わなかった。ちなみにあんなにうきうきしながら鞄につっこんだタオルは一度も取り出されることはなかった。「全員で勝つ」タオル、持って行ったんだけどなぁ…。

 次回パレードが行われるときには朝から御堂筋で待機するんだ!という私の意気込みへの「八木さん、来年もオリックスが優勝する気でいるの?」という彼氏M氏からのつっこみには、うるせぇ!と一蹴した。中嶋オリックスを信じろよ!いや今シーズンも日本シリーズも最後の最後まで信じきれなかったけどさ!未だに応援している球団が日本一に輝いたことを実感できていなくて申し訳ない。

 

 そんな私は明日、京セラドームで行われるオリックスのファンフェスタに行く。M氏がチケットを取ってくれたのだ。実はファンフェスタに参加するのもはじめてである。つまり勝手が分からない。

 だが、あの日あの時御堂筋にいた私は早めに行動を移すことの大切さを身をもって知っているので、とりあえず明日は早めに京セラに向かうつもりである。「座席は確保できているんだよ」というM氏の声には聞こえないふりをする。

 

 オリックスさんへ。2年連続のリーグ優勝、日本一と感動をありがとう。でも私は次こそ「行きました!」と言えるようなパレードの思い出を作りたいので、どうか来年も優勝を目指してください。お願いします。とオフシーズンに入った今、すでにオリックスさんに対して邪な期待を抱きつつ、明日のファンフェスタが今からとても楽しみだ。

アイドル氏と読書の秋

 密かに推しているアイドル氏がいる。沼落ちしてから、こっそりひっそりと応援するようになって一年弱、彼の存在は今の私の精神に多大なる影響を与えている。
 そんなアイドル氏が表紙を飾ったファッション誌を手元に迎えた。うん、やっぱり表紙から素敵だ。うきうきしながら特集されたページを開く。
 ファッション誌を買うようになったクセに、私が一向にオシャレに目覚めないのはアイドル氏の特集ページに注目して、他のページをおざなりにしているからだろう。
 アイドル氏は今回も色々な表情を魅せてくる。この表情/アングル素敵だなぁとか、この衣装似合っているなぁとふがふが読み進める。
 と、特集ページの最後に掲載されているインタビュー記事を読み始め、すぐに読む手を止めた。
 テーマである「何かを新しく始めること、続けることの大切さ」を話すアイドル氏だが、「飽きてしまったこともある」という。
 
 アイドル氏 「本を読んでいる途中、急に違う本が気になって読み始めてしまう」
 さらにアイドル氏「読みかけの小説が何冊もあるのに本屋でまた新しい小説を買ってしまう」
 
 め、めっちゃ分かる…!!一緒じゃん!!
 スタイル抜群、顔もいい、歌って踊れる、服装のセンスも良い、そんなアイドル氏との共通点、そこでいいの?って感じだけれど、「分かる〜!」と思えるのが、すごく嬉しい。
 
 そう、私は相変わらず「本を読もう!」と本棚から本を取り出すまではいいものの、すぐに「今じゃなくて良いか」と本棚に戻して、その間に本屋で「面白そう!/読み返したいな」と新しい本を買うを繰り返している。
 
 過去に本棚にある積まれたままの本をいくつか書き出していたが、これから一年が過ぎ、過半数が読めていません。ふふふ。
 
 そんな状態だが、最近読み終えた本や挑戦したい本がある。
 
・杏のふむふむ(杏/ちくま文庫
 モデルや女優として活躍する杏さんの初のエッセイ本だ。彼女がこれまでに出会った人たちとのお話がたくさん盛り込まれていて、どれも面白く読めた。私も何度も「ふむふむ」となりながら読んだ。どれくらい面白かったかって、スマホ中毒の私が、スマホも触らずページを捲って半日で読み切ったくらいです。(よっぽどだって察してほしい)
 杏さんは(自称)歴史好きの私からしたら「歴女」の大先輩だ。同じ幕末史からスタートされていることに嬉しさを感じたが、幕末史だけじゃなくて、色んな時代や人物を網羅されているところがもう尊敬。昨年から始められたYoutubeも面白くて、何度も見返すくらい。一人の女性として尊敬する一人である。
 エッセイ集は第二弾もあるようなので、本屋で見つけ次第手に取るんだろうなぁ。
 
・桃色トワイライト(三浦しをん新潮文庫
 大好きなエッセイの一つ。学生時代に手をとってから定期的に読み返して、先月も読み返した。三浦しをんさんの小説ももちろん面白くて好きなんだけど、日常の中のアレコレを面白く描くエッセイも大好き。
 大河ドラマ新選組!」のお話や「仮面ライダークウガ」「オダギリジョー」の話は、そのジャンルを通っていないにも関わらず何度読んでもふふっと笑ってしまう。
 しをんさん!本作の中に収められている「物陰カフェ」の実現はまだでしょうか…?
 
 以上最近読んだ作品2つでした。エッセイって手軽に読めるから、ついつい優先度高めで読んでしまう。
 ちなみに次に読む作品はすでに決まっている。読むというより挑戦したい作品だ。
 
坂の上の雲司馬遼太郎/文春文庫)
 先月愛媛は松山にある「坂の上の雲ミュージアム」に訪れた。作品の主人公である秋山好古/真之兄弟、そして正岡子規に関する資料や、日露戦争下の資料が近代的な建物にたくさん展示されていて、とても楽しめた。
 昔NHKで放送されていたドラマは家族みんなで見た思い出がある。真之を演じた元木雅弘さんがとにかくかっこよくて、母と二人でキャーキャーしていた。
 原作は実家の父の本棚にあったので、ドラマの放送前後で一度手を伸ばした。伸ばしたのだが途中で断念した。なぜか、私はカタカナが覚えられないからだ。身近でないカタカナ五文字以上の単語や人名は、多分脳が受け入れることを拒否しているんだろう。物語途中から多く登場するロシア人ズの名前がどうしても覚えられず(あと外交云々が本気で分からなかった)、断念した記憶がある。あの時代のロシア人の名前でパッと出てくるのが「ニコライ2世」と「ラスプーチン」だけの女ですこんにちは。
 しかしながらすぐに影響を受ける女なので、ミュージアムに一度訪れただけで、これはきちんと原作を読まねばならぬ…!という気持ちでいっぱいになった。って言いながら、一巻の冒頭のあたりで別の本(「杏のふむふむ」です)に浮気してるんですけどね♡
 
 ところで、司馬遼太郎の作品が好きです!という割に、私は司馬作品を読んでいない。「峠」「燃えよ剣」「馬上少年過ぐ」「新選組血風録」等といった比較的短いお話は読んだ。
 だが「坂の上の雲」はもちろん、「竜馬がゆく」「翔ぶが如く」(これは途中で断念したままだ)といった長編も、幕末以前の時代を扱った作品も読んだことがない。ぶっちゃけ「峠」が好き!=司馬遼太郎が好き!を押し付けている節がある。
 朝晩が冷え込んできて、いよいよ夏が終わって秋がやってきたんだなあと感じるようになった。
 読書の秋、と言えるようにスマホではなく本を読む生活を心がけたいと思ったのであった。
 ほら、アイドル氏も「続けることが大切」って言ってるから!!ね!!
 そうそう、彼がこれまでも含めて何を読んでいるのかがすごく気になるので、どこかの出版社、アイドル氏×小説をテーマに特集組んでいただけませんか。彼が挙げた作品なら、普段読まないジャンルでもきっと読む自信があるから! どんどんちょろいオタクになっている自覚がある、そんな秋。

過激派オタク、憤死

 

映画「峠 最後のサムライ」を鑑賞した。

司馬遼太郎原作の本作は、幕末期を生きた越後長岡藩家老・河井継之助を主人公にした作品だ。高校生の頃に父に勧められて原作小説を読んでから、そこから主人公河井継之助が大好きになった。移り変わりの激しい私の推し遍歴の中で、好きになって以降ずっと不動の一位は継サだ。

大好きな継サを大きなスクリーンで見れる!とドキドキとワクワクを抱きながら向かった映画館。

 普段映画を見たからといって感想文を書くことはないが、「峠」に関しては自分の気持ちに一区切りをつけるために書く。

 

 ネガティブな吐き出ししかしないよ!気を付けて!

 

 いやーーー!!酷かった。酷すぎた。これに尽きる。

 一言でまとめると「解釈違いのオンパレード」だった。

 映画がはじまって最初から「これはまずいかもしれない」と思った。あまりに「はぁ?」という展開が続くからだ。途中から見るのが苦痛で、中盤は悔しさのあまりにハンカチ片手に泣いた。後半はもはや虚無。トイレに行きたいから早く終われと念じながら見ていた。「面白かった!」「継サってやっぱりかっこいい!」と見終わった後に抱くんだろうなと思っていた感想は一切出てこず、「素敵な映画を見れた!」という余韻に浸るということもなく、「私が見たかったのはこんなんじゃない」と半泣きで映画館を後にした。

 

 じゃあどこが酷かったのか。あくまで司馬遼太郎の描いた「峠」の河井継之助が好きな人間が見た映画「峠」を吐き出すことにする。

(文中の俳優のお名前は全て敬称略。新政府軍は西軍、長岡藩はじめとする旧幕府方は東軍と称していますなんとなく。)

 

1配役

史実の河井継之助は41歳で亡くなる。対して河井を演じた役所広司は60代。そもそもがおかしい。役所広司である必要あった?

「日本のいちばん長い日」(2015年公開)で阿南惟幾を演じた役所広司はよかったと感じたが、それは役の年齢と演じる人の年齢が近かったからだと思う。

「「峠」映画化するよ!主演は役所広司だよ!」と発表されて以来、「いや年齢…」と不満はあったが、やっぱり不満は解消されなかった。役所広司が嫌いになりそうになったぐらいだ。

 河井の両親が息子夫婦に子が授からないことを話す場面がある。これまだ演じる俳優が30代40代前半の人だったらそこまで思わなかったんだろうけど、肝心の息子を60代が演じているとなると、河井父の「今さら励めと言ってもなぁ」という発言が気持ち悪い。

 年齢だけじゃない。スクリーンに映るのは私の理想とかけ離れた河井だった。河井はそんな笑顔振りまく人じゃないし、そんなに暑苦しくない。ご飯も汚くかきこまない。役所版河井のすべてが解釈違いで、原作と同じ台詞に対しても「お前が言うな」と思いながら見ていた。

 

 役とキャストの年齢があっていないのは主人公だけではない。全体的におかしい。

 新政府軍軍監・岩村精一郎(のちに高俊)は、「峠」後半において重要な人物だ。北越戦争のきっかけともなった小千谷談判にて河井はこの岩村と対峙するのだが、当時の岩村は若干24歳。しかし演じた吉岡秀隆は現在50代。(撮影時は40代だとしても…あの…?)「Dr.コトー診療所」の時の吉岡さんはよかったが以下略。

 談判中に「話なんて聞かん!さっさと帰って戦の準備をしろ!(ニュアンス)」と岩村が河井に対して喚くのだが、岩村にヘイトを抱かせるにはすごく良かったです(嫌味)。でも20代の若手俳優が演じたらもっと違ったんだろうなぁ。

 大殿様こと長岡藩前藩主・牧野忠恭戊辰戦争時44歳。演じた仲代達矢は、2022年時点で90…?えっ…?なんで…。

 ほかにも言い出したらキリがないから割愛するが、本当なんでその人たちで映画を作ろうと思ったの?知名度なくてもいいから、全体的にマイナス20歳若い、かつ演技力のある役者さんたちで演じてほしかった。

 

2夫婦ってすばらしいを謳う作品ではないんですよ

作中、河井と妻・おすがのやり取りが何度か登場する。それはいい。でもそれに比重を置かないでほしかった。もっと描くところあるでしょ。

オルゴールのくだり…いらん…。河井母とおすがの後半のやり取り…もっといらん…。河井を支える妻!みたいなのは「峠」において本当に必要でしたか?

 

3山県君

 キャストが発表されてから鑑賞直前まで、私の中の一番の不安要素が「キャスト一覧に山県有朋を演じる俳優の名前がない」だった。

 北越戦争において、新政府軍を指揮した山県有朋は物語後半の西軍側の主人公だと思っている。悪名高い山県だが、原作の彼は河井率いる長岡藩をはじめとする東軍に苦しめられ、また逆に苦しめる。どうすれば相手にとって痛手となるかを河井・山県両視点で描かれているのが熱い。そんなライバル・山県有朋の名前がキャスト一覧にはなかったのだ。

 西軍が信濃川を渡って長岡城下に奇襲をかける「信濃川渡河作戦」は原作で山県が立案し実行に移す。この普通なら考えられない作戦によって、東軍は城を捨てなければならない窮地に立たされる。漫画ならめちゃくちゃ熱い展開なんですけど、あのね、聞いてほしい。

 

 山県有朋、本当に出てこなかった。

 

 名前すら出てこない。そんなことあるんですね。

 のんきに朝ごはん食べてる岩村にブチ切れる山県が見たかったのに!友人を亡くして悲しむ山県が見たかったのに!

 信濃川のくだりだって、朝日山を制したよ!やったね!これで西軍は簡単には城下にこられないね!だって信濃川が守ってくれるもん!からの、うわー!信濃川を渡って西軍がやってきたー!大変だーーー!!って感じだった。なにそれ。なにそれ!

 劇中で泣いたのがここです。奇襲のくだりで本当に山県が出てこないんだって理解すると同時に、既に1時間と少しの間で溜まっていたストレスがぶわっと溢れて涙が出た。

 

4不親切

徳川慶喜」「榎峠」「朝日山」…これなんだと思いますか。

 正解は作中画面下に出たテロップです。慶喜はともかく、「榎峠」と「朝日山」(どちらも地名)ってテロップいれる必要ある?その前に他の登場人物の名前を入れなよ。誰が誰なのかさっぱり分からんかったから。最初から最後まで榎木孝明が誰を演じているのかさっぱりでしたよ。あとで公式ホームページを見て、「あぁ川島億次郎やったんか」って答え合わせしたもの。

 文庫本上中下巻という大作である原作を2時間の映像にまとめるのは難しいのは分かる。だから上中巻に関しては全カットで、北越戦争をメインとした下巻だけにスポットを当てるのも分かる。分かるんだけども。

あの時期の長岡藩がどういうポジションだったのか、河井継之助が藩においてどういう役割だったのかなんて説明なし。小千谷談判の時に、岩村がワァワァ「新政府軍に金出せって言ってんのに出さないじゃん!おこ!」って喚いていたけど、西軍側が河井をどう見ていたとか、なんで長岡藩が金を出さなかったのかとか描かない。でも絵を描く少年(河井の友人の息子)や酒を注いでくれる町人の娘と河井とのやり取りにはめちゃくちゃ時間割く。芸者を揚げに行くシーンも長い。割いてほしいところと別にそこまで割かなくていいんじゃないっていうところが、制作陣と真逆なのが笑える。

 

 河井継之助ってメジャーな人物ではない。中高の教科書に名前載っていないし、私も原作を読むまで存在を知らなかった。有名どころではないからこそ、丁寧にナレーションや登場人物をつかって描くべきではないか?

 全体的にもったいないなと、なんとか2時間を耐えて見終わった後に思った。この映画をきっかけに、「河井継之助」という人物に興味を持つ人っているんですか?「峠 映画」って検索をかけたら「大ヒット上映中」って文字が見えたんですけど、どの層が支持しているんですか?面白いとか、感銘を受けるシーンあったんですか?なんやかんや期待して見に行って、裏切られた気でいるオタクがここにいるんですけど。「同じ人物を主人公にした、たまたま同じタイトルの、まったく別の作品を見に行った」「私が好きなのは原作の「峠」」と自分に言い聞かせて自我を保っている状態だ。大御所の監督がメガホンを握ったとか、大御所俳優をはじめ豪華俳優陣が演じました!って言われても、それでこの出来ですかとしか言えない。

 

 幕末を舞台にしたドラマや小説・漫画といった媒体で、河井継之助が取り上げられる機会がないからこそ、すごく楽しみにしていたし、新型コロナ感染拡大による数回に渡る公開延期が決まるたびに「どうして峠ばっかり」と涙していた。何様?って感じだけど、公開されることによって河井の知名度もあがると思ったからだ。

 最初から見に行かなきゃよかった。期待値が高すぎたといえばそれまでだけど、去年公開された同じ作者原作の「燃えよ剣」を見たら、「峠も!」ってなるじゃん。

 「最低でも5回は見に行く!お金落とす!」と息巻いていたけれど、ごめんなさい2回が精いっぱいだった。

 さようなら、映画「峠」。私は一切受け付けなかったけど、それでも鑑賞直前までの楽しみにしていた気持ちはこれでも本物でした。

 

 以上感想終わり。これ以上愚痴を言うのはやめる。大好きな原作を読み返して、継サへの愛を再確認する。